大佐の研究所

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雨滴の問題 終端速度に関する研究

 

 

1.はじめに

 今回は学術的な話題を。物理に興味のある読者は参考になると思う。興味本位で元理系院生の私が調べてみた、「雨滴の問題」である。

 先日の記事で紹介したクイズアプリ「Aquiz」においてクイズを作問しているときに次のような問題を「理科」のカテゴリーで思いついたことがきっかけである。

www.ddavinch.com

 

「落下する物体の速度はやがて一定速度(終端速度)になる。雨滴の終端速度に近いのはどれか」

A.時速30km

B.時速80km

C.時速130km

 

 

 

ーーー以下答えーーー

 

 

 

答えはA.時速30kmである。

秒速なら8.3m/sほどとなる。当然、気流の状態や雨滴の大きさによって値は変わるがオーダーはこんなものだ。実際、近畿大教授の高野・竹原氏による雨滴落下速度の研究成果https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejhe/70/4/70_88/_pdf/-char/ja

から引用すれば、以下のグラフがある。

 

f:id:SHGG:20190829072939p:plain

 秒速0~10m/s, すなわち時速0~36km程度ということだ。どんな高さから落としても雨滴の終端速度はこの程度である。これはいったいなぜなのか。基本的には物体は落下するとドンドン重力加速度で加速して速くなる。しかし空気抵抗を受けることによって減速も受けるため、やがてこれが釣り合って終端速度という一定の速度に落ち着くのである。

 

2.雨滴の落下

 物理系に限らず理系なら大学1年生の力学で学習するような内容である(ただし、一部ハードかも)。雨滴の質量をmとして高さhから自由落下する場合を考えよう。この時、物体の運動方程式は次式で書き表される。

 {m\ddot{x}=mg-\frac{1}{2}\rho v^2 S C_D}

 なお、右辺第二項は空気抵抗を表す。大学一年生では空気抵抗は速度に比例する「kv」と書くことが多いが、これは簡略化しているだけであり実際は「速度の二乗」に比例する。mは雨滴の質量、{\rho}は空気の密度、vは雨滴の速度、Sは雨滴の断面積、{C_D}は抗力係数を指す。面倒なので、{k=\frac{1}{2} \rho S C_D}と置き、速度vを用いて書きなおして

{\frac{dv}{dt}=g-\frac{k}{m}v^2}

となる。

 

 この微分方程式は未知数の「二乗」が入っているが変数分離法を使えば容易に解ける。右辺が1になるように両辺を割れば

{\frac{1}{g-\frac{k}{m}v^2}\frac{dv}{dt} =1 }

両辺を積分して

{\int dv \frac{1}{g-\frac{k}{m}v^2} =\int dt }

左辺についてみてみよう。{v=\sqrt{\frac{mg}{k}}tanh\theta }とおけば、

(l.h.s)={\int d\theta \frac{1}{g-gtan^2 h\theta} \sqrt{\frac{mg}{k}} \frac{1}{cos^2 h} }

※l.h.s=left hand side,左辺のこと

{1-tan^2 h\theta =\frac{1}{cos^2 h\theta}}を利用すれば

(l.h.s)={ \sqrt{\frac{m}{kg}}\theta }

故に、{ \theta=\sqrt{\frac{kg}{m}}t + C }

両辺にtanhを作用させて整理すれば

{v(t)= \sqrt{\frac{mg}{k}} tanh(\sqrt{\frac{kg}{m}}t + C) }

v(t=0)=0とすれば、C=0となるため、

{v(t)= \sqrt{\frac{mg}{k}} tanh\sqrt{\frac{kg}{m}}t }

t→{\infty}とすれば、

{v(\infty)=\sqrt{\frac{mg}{k}}}

これで終端速度が求められた。簡略化したkvのモデルでも同様の結果となる。もともと{k=\frac{1}{2} \rho S C_D}であったことを思い出し、また、{m=\rho_s V}(それぞれ雨滴の密度と体積)、雨滴を急と仮定してその半径をaとおけば

{v(\infty)=\sqrt{\frac{8a\rho_s g}{3 \rho C_D}}}

とかける。この抗力係数{C_D}が大変厄介でこれを求めるのは難しい。とはいえ、ここで終わってしまうのも悲しいのでwikipediaの「終端速度」の項目終端速度 - Wikipediaを参考にして、乱流域(ニュートン域)と呼ばれる気流下での値「0.44」を用いる。ほかの流域だと定数ではなく複雑。

また、雨滴の密度は水の密度なので{997kg/m^3}、空気の密度を一般的な{1.293kg/m^3}として代入すれば、

{v(\infty)=214\sqrt{a}}

と求まる。半径1mmの雨滴の場合、終端速度は6.76m/sとなる。上記の近畿大学のデータでは直径2mmの場合、6m/s程度なのでおおむね一致している。

このように一部大雑把ではあるが、結構簡単な式で雨滴の終端速度を求められる。科学の力ってスゲー!!

 

3.人間の落下速度

 さて、次にスカイダイビングなどをする人間の落下速度を考えてみよう。落下時の姿勢は両手両足を広げている状態。雨滴と違うのは重さm、断面積Sである。終端速度自体は以下の式で表せる。

{v(\infty)=\sqrt{\frac{mg}{1/2 \rho S C_D}}}

人間の体重を60kgとしてさきほどの値を代入していけば

 {v(\infty)=\sqrt{\frac{60 \times 9.8}{1/2\times 1.293\times S\times 0.44}}}

となる。問題なのは断面積だけ!!

人間の断面積っていくつ?両手両足を広げた人間を正面から撮影してその写真に対して座標を調べてExcelでフィッティング関数に当てはめて積分すれば計算できないこともないが...めちゃめちゃ面倒くさい!笑

というわけで、幾分か簡略化を。手足を開いていようが閉じていようが正面から見た表面積自体は同じはずなので、両手両足を閉じた状態で求める(表面積が同じなのに手足を広げる姿勢をとるのは、手足を閉じた状態だと重量のある頭部が下を向いてしまうため。人間の密度が均一なら手足を閉じても紙のように落下していくはず)。両手両足を閉じて起立した人間を正面から見て長方形とする(超簡略化)。身長170cm, 横幅30cmの人間とすれば、S=0.51m^2

よって、終端速度は63m/s, 時速226km!

 実際のところ、いくつかのサイトをサーフィンしたところ、スカイダイビングの速度は時速180~200kmくらいらしい。まあ超概算してるのでこんなものか、おおよそ一致しているとみなしてよいだろう。