大佐の研究所

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隕石についての研究

 

 

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隕石衝突シミュレーション

1.隕石とは

 隕石とは、宇宙空間中の固体物質(氷塊、岩石など)が惑星の表面に落下してきたものである。小型のものはわりと頻繁に地球にも落下しており、たびたび目撃されている。

  

 近年で有名な事例としてはロシアのチェリャビンスク州(州都チェリャビンスクシベリア鉄道の起点にして、人口100万を超える比較的大きい都市である)での隕石事件である。チェリャビンスクの隕石は空中で爆散したため(UFOの仕業とかいう噂もあるが...)、致命傷は免れた。しかし、ソニックブーム(Sonic Boom; 衝撃波)が発生し、市内のガラス窓などを粉砕した。そのため死者こそ出ていないものの1000人以上が負傷する惨事となった。

 

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チェリャビンスクの隕石雲

 似たような事例では、ロシアでのツングースカ大爆発が隕石によるものとして知られている。1908年、ポドカメンナヤ・ツングースカ川上流(ポケモンに登場する「ポナヤツングスカ」の元ネタと思われる)にて突如発生した大爆発のことである。当時の記録によれば、半径30-50kmが炎上し、1000km以上離れた民家の窓ガラスが割れるほどの衝撃波が観測されたそうだ。幸い森林地帯であったため死傷者は確認されていないが、万一都市部に落ちていれば大惨事は免れなかっただろう。破壊力は5-15メガトン(from wiki)と考えられている。

 多くの隕石は大気圏での断熱圧縮による空力加熱で燃え尽きてしまう。一部の燃え残りが地上に飛来することで、これらの隕石のようにソニックブームや爆発を引き起こす。よく「大気との摩擦で...」という表現が用いられるが、これは誤りである。本レポートでは、隕石のソニックブームの発生原理、空力加熱の話、そして隕石の威力や兵器転用の可能性などについてまとめたい。

 

2.ソニックブーム

 物体が超音速で飛行すると、衝撃波が発生する。黒い点の物体が音を発しながら左に音速で進んでいるとする(以下の図)。まず一番左の図における赤い点からスタートし、物体は音速であるから、スタート地点で発した音(同心円状に広がる赤い点線)と一緒に進む。真ん中の図では、青の点に来た時に発した音とも同じ速さであるため、青い点で発した音と一緒に物体は進む。同様にして一番右の図でも緑の点で発した音と同じ速度であるため、音は物体と同時に進み、重なり合う。音は物体より先に進むことはなく、この重なり合っている面をいわゆる衝撃波と呼び、この面の境界では圧力や温度が極端に大きく変化する。

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ソニックブームの発生

 物体が音速を超える、超音速の場合、物体の後方に衝撃波が形成されることになる。この衝撃波は以下の図のように円錐型となり、「マッハ円錐」と呼称される。反頂角を{\mu}とすれば、マッハ数M(速度/音速、マッハ1は時速約1000km)を用いて、{\sin{\mu}=\frac{1}{M}}の関係がある。

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マッハ円錐(http://www.rikou.ryukoku.ac.jp/images/journal57/RJ57-03.pdfより引用)

3.空力加熱

 先ほども申し上げたように、隕石は大気との摩擦で燃え尽きるのではない。超音速で進む場合先ほどのように衝撃波が発生し、あまりの一瞬の間に変化が起こるため、外部との熱接触のない断熱過程が起こる。短時間に大気が圧縮されるため、これは断熱圧縮過程である。断熱過程の場合、温度T, 体積V, 比熱比{\gamma}(乾燥空気は約1.4)に対して{TV^{\gamma-1}=const}が成り立つ。すなわち、大気が圧縮されれば温度は上昇する。この急激な断熱圧縮を経ると物体の温度はどの程度上昇するのだろう。

 実は、イメージ通りかもしれないが、速度が速いほどにこの断熱圧縮は強くなり、温度も大きくなる。物体のマッハ数をM、衝撃波前後の温度を{T_1}, {T_2}とすると、次の式が成り立つ(導出を知りたい場合、 Liepmann,H.W.andRoshko,A.,ElementsofGas Dynamics, (1957), Wiley. が参考になる)。

 {\frac{T_2}{T_1}=1+\frac{2(\gamma-1)}{(\gamma+1)^2} \frac{\gamma M^2 +1}{M^2}(M^2-1)}

 

この式を見てわかるように、M<1の時は右辺が負になって成り立たない。条件としてはM>1となる。なお、これは物体前方において垂直に衝撃波が形成されている場合の式であり、物体の側面や別の部分では斜め衝撃波が形成されるため幾分か温度上昇は抑えられる。

 要するに、物体前方が極端に熱くなるということだ。

さて、どの程度熱くなるかだが、仮に隕石のスピードをマッハ25、高度80km地点の温度を200Kとすれば、{T_2=24494K}にもなる。実に122倍にも温度が上昇する(ただし、実際には複数の要因からこれほど温度は上昇しない)。この猛烈な温度上昇によって隕石の大部分は燃え尽きてしまうのである。

 

4.隕石の威力

 地球にとって隕石は危険でもないかもしれないが、我々生命体にとっては一大事である。隕石衝突時の破壊力は計り知れない。例えば、ガンダムで登場したコロニー落としのケースを考えてみよう。ガンダムwiki(https://gundam.wiki.cre.jp/wiki/スペースコロニー)によれば、スペースコロニーは質量100億トン、全長35km、直径6.4kmの円筒型である。これが地球公転軌道上で地球の重力につかまって地球に接近し、地表に激突した場合にかかるエネルギーを計算したい。基本的に生じるエネルギーは運動エネルギーなので質量をm、衝突時の速度をvとして{\frac{1}{2} m v^2}で表せる。衝突時の速度を求めたい。

 まず隕石の位置をr(t)とし、静止軌道上での速度を{v_0}とする。万有引力定数をG、地球の質量をM、地球半径をR、隕石質量をmとすれば

 {m \frac{dr(t)^2}{dt^2}= G \frac{mM}{r(t)^2}}

 と位置r(t)での隕石の運動方程式が書ける。

なお、等加速度運動の公式より時刻tにおいて

{v^2-v_0^2=2 (G \frac{M}{r(t)^2}) r(t) }

が成り立つ。隕石衝突時{t=t_0}において、{r(t_0)=R, v(t_0)=v}として

{v=\sqrt{v_0^2+2gR}}

とかける。gを地球上での重力加速度として{9.8m/s^2,  R=6400km, v_0=10km/s}とする(地球の重力圏を脱出できる速度である第二宇宙速度は11.2km/sである。地球の重力につかまらずに地球公転軌道を周回し続けるには、その物体の速度の(地球にとっての)r方向成分がこの11.2km/s以上で出なければならない。地球公転軌道上の物体は全て太陽の重力によって約30km/sで周回しているため、第二宇宙速度を通常は下回ることはない。しかし、公転軌道はケプラーの法則からわかるように楕円軌道であるから近日点や遠日点では若干周回速度は異なる上、地球に対する向きもその都度近づき方で異なる。そのため、地球の重力につかまることもある。ここでは第二宇宙速度以下の10km/sとした)。計算すると、{v=15km/s}となる。

 この速度でスペースコロニーが落下すると、空気抵抗を考慮しなければ運動エネルギーは{1.125 \times10^18J}、すなわちTNT換算({4.184 \times10^9J}TNT火薬1tとしたエネルギー換算)をすれば269メガトンにもなる。広島型原爆リトルボーイは15キロトンであるため、実にその17000倍にもなる。ちなみに1961年にソ連で試験された人類史上最大の水素爆弾とされるツァーリ・ボンバは50メガトンであるため、これの5倍程度である。また、この威力は直径210mの隕石の衝突に相当する(https://impact.ese.ic.ac.uk/ImpactEarth/cgi-bin/crater.cgi?dist=3000&diam=100&pdens=1500&pdens_select=0&vel=17&theta=90&tdens=&tdens_select=1500参照)。なお、大気圏での焼失する部位や分離する部位もあるので実際はこれより小さい。この数値は最大でもこれくらいの威力になる、とみるべきである。オーストラリア大陸の14%が消滅するのも無理はないだろう。

 地球滅亡、というより人類滅亡クラスの隕石がどの程度かは状況によってかなりの差はみられるが、直径1km以上とされている。先のサイトで計算すると27100メガトン、つまりツァーリ・ボンバ542個分という途方もない破壊力となる。

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スペースコロニーの落下

5.兵器としての性質

 核兵器が無効化された場合、核さえも上回る殺傷能力を持つ兵器が質量兵器であると思う。現在の人類では宇宙空間に出るのがやっとという状態だが、それが容易になれば隕石は兵器として非常に強力なものである。事実、アメリカ合衆国は神の杖(Rods From God)というトンデモ兵器を考案している。これは低軌道上の人工衛星からタングステン性の巨大な「槍」を地球めがけて投下し、質量爆弾として攻撃すると想定されている兵器である。宇宙兵器の保有は禁止されているが、アメリカ合衆国は批准していないため関係がない。条約というものがいかにお飾りか分かる、罰則を設けるなどの強制力のない法令など効力を持たないのだ。核兵器のような大規模攻撃というより地下への攻撃を重点としているようであるが、いずれにせよ大量破壊兵器のたぐいであることは間違いない。

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神の杖